偏愛シチュエーション

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花の嫁入り -清酒奇譚 妖狐録-(CV:千渡レナド)

花の嫁入り -清酒奇譚 妖狐録- / 千渡レナド 

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アイリスクオーツ発、異類婚姻とお酒にまつわる話がテーマのシリーズ第四弾。今回は神様ではなく、神に仕える妖狐が相手。声は個人的にはじめての千渡レナドさん。

ヒロインは五歳の頃、神隠しにあった経験がありました。頭にふさふさの耳、下半身に大きな尻尾を生やした青年―妖狐―と神社で鬼ごっこをした夢を何度も見るヒロイン。そこはヒロインがいた時空とは異なる別の世界。二つの時空は行き来が出来ない、元の世界に戻るならこちらには来れなくなると言う妖狐。ママに会いたい、でも妖狐とも一緒にいたいとヒロインは悲しみます。妖狐はいつかまた会う約束と言ってヒロインの指に花の指輪を、小指で指切りをします。針千本では破れない、守れば終わりのない幸を与える約束の指切りだと言う妖狐。

 

  

時は戻り現代、ヒロインは大学生。朝の通学時、マンションの隣の部屋に住む青年・橙也(とうや)に声を掛けられます。彼はネット中心に活躍する自称日本一の占い師。ヒロインが妖狐の夢の話をすると、橙也は忘れずに好きでいればまた会えるかもしれないと話します。顔相占いが得意な橙也、ヒロインの顔を見て占うと良くない運勢と表情が曇ります。ヒロインの予定を聞き出し、近所のラーメン屋に食べに行かないかと誘う橙也。お隣さんでよく話はするものの一緒に出掛けるのははじめてで、これは実質デートでは。大学の授業の後、待ち合わせして食べに行くことに。帰りに話しながら歩いていると、ヒロインが走ってきた自転車にぶつかりそうになり、それをかばう橙也。心配して手をつなごうとする橙也に照れるヒロイン、今度はバイクが走ってきて彼女と接触、橙也の叫びを聞きつつ意識を失ってしまいます。

  

 

ヒロインが目を覚ますと、古風な言葉で話す心配げな青年の顔が。ヒロインは青年に橙也、と呼び掛けますが彼は否定。青年にはふさふさの耳と尻尾がありました。ここはヒロインの家の近所にある、稲荷神社の裏側だと言う彼。青年は十五年前の話をします。幼いヒロインがこちらの世界に迷い込み、一緒に隠れ鬼をしたこと。同じ時間に帰したつもりが二日ずれてしまい、神隠しと言われ大騒ぎになったこと。ヒロインがよく見るお狐の夢は目の前にいる青年との思い出で、夢での出来事は別の世界で現実にあったことだったのです。今度は同じ時間に帰す、酒宴に付き合ってくれと清酒を勧められることに。妖狐の夢を何度も見ているものの、こちらであったこと全てを覚えているわけではないヒロイン相手に、思い出話をする彼。成人したばかりのヒロインは、飲みつけない酒を飲み眠ってしまいます。

   

眠っているヒロインに妖狐はキスをし、服を脱がせ身体に触れます。年頃になるのを待っていた、なるべく早く祝言を挙げて静かに楽しく暮らそう、とこちらでの生活をひとり想像して話す彼。子作りは初夜まで待つけど楽しませてくれ、と途中までされることに。抵抗はしなかったものの、事後驚きと恐怖で身体を震わせるヒロイン。妖狐は怖がる彼女をなだめ、抱き締めて一緒に眠ります。

  

翌朝、ヒロインが起床すると妖狐が朝食を作っていました。着物の着付けが不慣れなヒロインの着物を直したり、結婚後の話をしたり楽しげですが、ヒロインは納得していない様子。ヒロインはここに来たのが偶然と思っているけど、そうではないと言う妖狐。人の子と遊び、心を通わせたのはヒロインがはじめてだったと言います。幼いヒロインはただ無邪気に遊んだだけでしたが、妖狐にとっては大事な思い出で、ほんの一時で恋に落ちたのでした。さらに鳥居をくぐりこちらに来れるのは、稲荷神社の神が認めた清らかな魂だけとのこと。妖狐は神の御子としてヒロインを娶ろうと決めたと言いますが、ヒロインには別の想い人が。ヒロインが好きなのは、隣人の橙也なのでした。

 

 

十五年前から約束していたにも関わらず、他に好きな男がいることを知り、嫉妬にかられた妖狐はヒロインに襲い掛かります。冗談と言いつつ約束を反故にするなら食い破って血肉にしてやろうか、と獰猛な獣の面があらわに。妖狐は人間の男だって危ない、十五年も一緒にいたのに何もなかったんだろうと痛い指摘を浴びせます。橙也のことが好きなら私が橙也になってやる、ヒロインが手に入るなら何でもすると十五年分の告白が重いです。最中は荒々しかったものの、鳥居には近づくな、まだそなたを失いたくないと懇願するように囁く彼。

  

 

次の日の朝、本山に行くと言って出掛ける妖狐。戻ってきた彼に、ヒロインは再び橙也と呼び掛けます。鳥居の近くに立つヒロイン、彼女の手には橙也の服が握られていました。妖狐は人間の青年に化けて橙也と名乗り、人間のヒロインのそばにずっといたのです。妖狐は橙也の口調で自分の失態に腹を立て、ヒロインは嘘をついていた彼を警戒。妖狐も橙也も嫌っていい、ここで結婚してくれと彼は叫びます。ただし結婚すればもう現世には戻れない、家族には会えないという言葉に、たまらず鳥居に向かって走るヒロイン。妖狐は伏せていた真実を叫び、ヒロインはその言葉に打ちのめされることに。 

 

 

異類婚姻がテーマのシリーズですが、今回は思わぬ方向に着地したのが驚きでした。妖狐として半人前であることに劣等感を持ち、人間に化けた仮の姿の方が好かれていると知り嫉妬したり、結婚に執着しているかと思えば離れて見守れれば良かったとか、複雑な心情をのぞかせます。ヒロインへの想いはすごく強いけど、傷つけたくないあまり嘘をついたり隠し事をしたりと、かなり不安定に感じました。不完全で行ったり来たりを繰り返す彼はとても人間臭く、そんな彼だからこそたどり着いた結論だったんだろうなと。

  

思えばこのシリーズ、人外が相手で人とかけ離れていると思っていたら戸惑いや心情の変化を見せたり、優れているようで孤独だったりと、住む世界が違う二人がどうやって気持ちを通わせるかが聞きどころだったと思います。今作の妖狐は末っ子で種族の中では若く、半人前という設定。仮の姿で人として生活した経験もあってか、とても感情豊かな彼。劣等感の強さは他者への共感に通じていて、ヒロインに譲歩したり気持ちを汲み取ったり、人間に近い感性の持ち主に聞こえました。  古風な言葉づかいで男らしくそれでいて品のある妖狐と、明るくチャラい兄貴然としたしゃべりの橙也とレナドさんの演じ分けが見事。情報量の多さと、喜怒哀楽が激しいキャラクターで気持ちが忙しかったです。さながら映画のようなスケールで、前シーズンを超えんばかりの熱量を感じました。