偏愛シチュエーション

18推CD、同人音声の感想ブログです。内容にふれているため自衛お願いします。

かつて王子様だったもの(CV:一夜愛)

同人サークル紅差しの2017年リリースのDL作品。「かつて王子様だったもの今では閉鎖病棟に篭った無職前科持ち薬漬けの三十歳-中瀬祐樹-」が正式なタイトル。2019年2月に発売された「風俗で奨学金を返そうとする女の子と、隣に住むろくでもないバンドマンの話。」の男性キャラクターが、三十歳で精神病院に入っている設定の作品。「バンドマン。」の後日談ではなくifストーリーです。声は一夜愛さん。www.dlsite.com

ヒロインは精神病院に数年勤める看護師。以前は小児科にいて、人手不足で閉鎖病棟に行くことに。大人の精神病患者相手のため緊張するヒロイン。精神科医の宮森に説明を受けていると、自分を殺せと叫ぶ男の声が。彼は元バンドマンの中瀬という患者。暴力沙汰を起こし、事件になったと噂されていた男性です。自殺未遂の度入院していて、今回は包丁で自分の身体を切ったとのこと。女の子に暴力をふるったことはない、コミュニケーションは普通に取れると宮森はのほほんとした口調で言いますが、かなり厄介な患者っぽい。ヒロインが担当する患者の一人が中瀬と言われます。新人ではないものの、他から移ってきたばかりのヒロインには荷が重いのでは。

 

朝食の介助のためヒロインが中瀬の部屋を訪ねると、朗らかに出迎えを受けます。青年は中瀬祐樹(なかせ・ゆうき)と名乗ります。食欲ないとほとんど食べずに朝食を断り、クラシックコンサートのDVDが観たいと言う祐樹。イヤホンが欲しいとリクエストされますが、コードで自分の首を絞める危険性があるから駄目だよね、とあっさり引きます。後で宮森にどうだったか聞かれるヒロイン。普通だったと言うと、宮森は驚きます。以前彼を介助した看護師は罵倒されたとのことで、相手によって態度が違うよう。地雷踏まずにコミュニケーション取れたのはすごいと褒められ、これからも祐樹を担当することに。
後日、祐樹の散歩の付き添いで外へ行くことに。数日前自殺に失敗したことを残念がる祐樹に、何故自殺したいのか尋ねるヒロイン。祐樹はいかに未来がなく、社会不適合者かおどけて話します。ヒロインは庭のピアノが設置された場所へ祐樹を連れて行きます。祐樹は作業療法の代わりにと、ピアノを弾くことを約束します。

 

ある日、ヒロインが祐樹の病室を訪ねるとひどく不機嫌な様子。ヒロインに「あんた誰?」と言う彼。ヒロインが名を呼ぶと「誰が祐樹と呼んでいいと言った」とすごまれます。目の前の男性は椿と名乗ります。中瀬は実は二重人格で、椿はもう一つの人格だったのです。椿は祐樹と違って、ぶっきらぼうで冷たい印象。クラシックは聴かない、ピアノは嫌いとか祐樹とはまるで別人です。祐樹の時の記憶がわずかにあるようで、その影響で椿は不機嫌になっている様子。椿はノートパソコンを持ってくるようヒロインに指示します。聞くと日記をつけて記憶の整理をしているそうです。椿は俺に構うなと冷たい態度。


別の日、ヒロインを出迎えたのは祐樹でした。入れ替わっていた時の、椿の記憶があるとのことで、椿がヒロインにきつく当たったことを謝罪されます。庭に行き、ピアノを弾く祐樹。ヒロインにピアノを教えてあげると、手を重ねピアノを弾きます。好きなことをしている時、嫌なことを忘れられると言う彼。祐樹はヒロインに君が好きと告白。優しく献身的なヒロインに心惹かれたと、祐樹はヒロインにキス。ヒロインは仕事中だからと、それ以上を拒みます。


次の日、ヒロインと出会ったのは椿でした。男性の介助者がいないからと、シャワー介助を申し出るヒロイン。椿は嫌がりますが、怪我をしているからとシャワー室に一緒に入ることに。バンド活動をしていた頃、傷害事件を起こしたのは祐樹の方で、自傷行為をしているのも祐樹と椿は語ります。暴力衝動があるのは祐樹の方で、穏やかに見えてかなり不安定な精神の持ち主のよう。そんな中、ヒロインの手の刺激で椿の下半身が反応してしまいます。つらそうだからと、手で奉仕するヒロイン。おとなしそうに見えて大胆です。つたない触り方を下手と言う彼に、口も使って奉仕することに。こんなことしてほしいわけじゃないと言う椿に、ヒロインは二人とも仲良くしたいからと言い呆れられます。

二人の(三人の?)仲は進展しているものの、祐樹と椿の精神状態が悪くなり強い薬を使うように。脳に電気を流す治療法を、医者から勧められていると告げる椿。恋愛がうまくいっているようでも中瀬は前科持ちで、精神を病んだ自殺志願者。悲観的で情緒不安定な椿は、ヒロインを拒絶。更に祐樹は「この世に君と僕と椿だけだったら」と語り、ありもしないヒロインの浮気を疑い、嫉妬したりと内面の暗さが出てきます。ヒロインとの心の距離を感じている祐樹は、普通って何と問い詰めます。一見穏やかそうに見えた祐樹ですが、内心とても傷ついていて、椿同様自分や未来に絶望していたのでした。祐樹はヒロインに一緒に死のうと迫ります。途中椿の人格に切り替わり、椿は逃げるよう叫び、ヒロインは難を逃れます。

 

メンヘラと聞いてなかなか聞けなかったのですが、実際聞いてみるとすごい純愛作品だなと思いました。両想いなのにすれ違ったり、絶望したり悲観していい方向に行けないのが切ない。メンヘラだけど生まれながらの鬼畜ではなく、こじらせ系の青年でした。ヤンデレ作品としては、さほどきつくないと思います。個人的にこたえたのは、生きづらさを凝縮したかのような中瀬のキャラクターの方でした。中瀬の生きづらさは過去のものではなく、現在進行形の生きづらさで他人事、フィクションとスルー出来ない重さがありました。中瀬の絶望は大袈裟ではあっても的外れではなく、一度ドロップしてしまったら這い上がれない現実を見るかのよう。精神病院の閉鎖された空間でありながら、中瀬の心には現実がべったりはりついているのが見えてなんともつらい。一夜愛さんが繊細で神経質、悲観的で現実的でもある難しい役を熱演されていました。二重人格の演じ分けも見事。最終トラック「かつて王子様だったもの」のセリフと演技が秀逸で、感銘を受けました。